矯正治療のリスク、副作用
矯正治療を行う際に考えられる一般的なリスク、副作用について
矯正治療にも限界があります。どこまで理想的な状態に近づけることができるかは、歯並びの状態(虫歯の有無・治療してある歯の有無)、骨格の問題(上顎前突・下顎前突・歯根を支えている歯槽骨の状態)、治療終了後の成長、習癖(吸指・口唇咬み・舌突出等)、治療中の協力によっても結果が変わります。また装置装着により、違和感、痛み(歯の移動の際の痛み・装置が当たっての痛み)、口内炎、発音障害、装置の素材によるアレルギー症状を生じることがあります。また、矯正治療による肩こりや頭痛、顎関節症、その他の体の不快事項や痛みなどの症状の改善にも限界があります。歯並びだけでなく顔貌(口腔周囲・顎の形態等)の審美的な改善を希望して矯正治療を行った場合にも改善に限界があります。また、隙間の不足によるガタガタの改善に永久歯の抜歯が必要な場合もありますが、疾病等により抜歯が困難な方もおられます。
矯正治療によるこれらの改善に対する過大な期待を持つことには十分な注意が必要です。
以下に矯正治療における一般的なリスクと副作用を説明します。矯正治療を開始する前には、治療の限界、リスクと副作用を十分理解したうえで受診して頂くことが大切です。なお、これら以外にも個々の患者さんに特有なリスクや副作用の可能性もあるため、不明な点は治療開始前に主治医に確認してください。
矯正治療での歯の移動中の注意事項、リスクと副作用
矯正装置による違和感や痛み
矯正装置を口腔内に装着すると、見た目の問題だけでなく、違和感、発音障害、口内炎を生じます。痛みに関しては装着時の痛みのほか、調節直後より少し時間がたってから痛みを生じることが多いです。夕方に調節を行った患者様では翌朝の痛みが一番強く、数日から1週間ほどかけて徐々に痛みが引いていきます。痛みを強く感じて食事がしづらい際には、市販の鎮痛剤を使用される患者様もおられます。
矯正装置の破損、脱落、誤飲、口腔内、口腔周囲のけが
歯面に装置を装着してワイヤーを使って歯を移動する治療の際、咬む力や硬い食べ物を咬んだことで、装置が破損したり外れることがあります。
ごくまれに外れた装置を誤飲してしまうことがありますが、通常は排泄されます。
また口腔内のワイヤーの変形、可撤式(取り外し可能)装置の維持のためのワイヤーの変形により、粘膜が傷ついてしまう場合があります。
上記の場合、当院まで連絡をお願いします。
矯正治療に伴う金属アレルギー
矯正治療に使用する装置には、いろいろな金属が含まれています。ごくまれに治療途中でアレルギー症状を生じることがあります。必要であれば、金属アレルギーに対応した装置に変更します。
治療中の口腔周囲の打撲による口腔内のけが
矯正装置がついた状態で装着時に口腔周囲をぶつけると、口腔内に傷を生じることがあります。
口腔外に装着する装置を使用する場合にも、口腔周囲にけがをしてしまう場合があるので、装着時に注意が必要です。
治療期間および治療途中での治療方針の変更について
歯の動くスピードは個人差があり、予定治療期間より早く治療が終了する場合と、延長してしまう場合があります。また、治療に対する協力(顎間エラスティック・可撤式装置の使用時間・定期的な通院・キャンセルの有無)によっても治療期間が延長してしまう可能性があります。指示された使用時間を守っていただくことが期間延長の防止となります。治療中の状況によっては、治療計画について再検討を行い、当初の治療方針を変更する可能性があります。
歯根吸収
矯正治療で歯の移動を行った際に、歯根が歯槽骨の中を移動します。この際に歯根の先端が吸収することがあります。通常はわずかな吸収で大きな問題は生じませんが、治療開始前から歯根が短い場合には注意が必要です。
歯の癒着(アンキローシス)
ごくまれに歯根が歯槽骨と癒着(打撲が既往の場合もあります)していて、歯が動かないことがあります。
癒着歯があることで、治療結果に限界を生じたり、治療方針の変更が必要な場合があります。
歯の神経(歯髄)の歯髄充血、歯髄壊死
歯の移動中に、歯髄が影響を受け充血して歯の色がピンクや赤く変色することがあります。
さらに血行障害が進行すると歯髄壊死となり、歯を削って神経の除去治療が必要になることがあります。
歯髄壊死を生じた場合には、歯の漂白、補綴(歯にかぶせ物をして歯の色を改善)することがあります。
歯肉退縮について
矯正治療で歯を移動することにより、歯根の露出(歯肉が下がって歯根が見える)、隣接する歯が接していても歯肉が下がって三角形の隙間が生じる(ブラックトレイアングル)を生じることがあります。
顎関節への影響
矯正治療中は歯が移動しているため上下の歯のかみ合わせが一時的に不安定になり、開閉口時に顎関節部に音、痛み、開閉障害等の顎関節症を生じることがあります。顎関節症はかみ合わせや矯正治療とは直接関係ないことが原因している場合もありますが、症状が出た場合には連絡をお願いします。一時的に矯正治療を中断し顎関節症に対する処置を行うことがあります。その場合、治療期間にも影響が出ることがあります。治療開始前に顎関節症の症状がある場合や治療中に顎関節症を生じた場合は、矯正治療を行っても症状が残る場合があります。
歯の形態修正、かみ合わせの調整の必要性
上下顎の緊密な咬合獲得のため、歯の幅(歯冠の研磨)、高さの調整(咬合調整)を行う場合があります。
歯にかぶせ物(補綴)を行っている際に、治療後のかみ合わせの問題がある場合には、かぶせ直しをすることがあります。
矯正治療中の口腔清掃について
固定式装置を装着して治療を行う際、装置を装着したまま、食事をしてブラッシングをする必要があります。
ブラッシングが不十分な場合、装置周囲に汚れが残るだけでなく歯肉との境界の清掃が困難になるため、着色、虫歯、歯肉炎、歯周病を生じる可能性があります。また歯を移動した際に隠れていた虫歯が見つかることもあります。食後のブラッシングをしっかりする必要があり、ブラッシングが不十分な場合に装置を外して虫歯、歯肉炎、歯周病の治療が必要になり、治療期間が延びるだけでなく、治療の中断が必要になることもあります。一般歯科での定期的な検診もお勧めしています。
乳歯、永久歯の抜歯について
顎の大きさ、歯の大きさのバランス、治療途中の状況により乳歯、永久歯の抜歯が必要になることがあります。
虫歯、歯槽骨の状況によっては、矯正治療のための理想的な抜歯以外の歯を抜歯する治療計画を立案することがあります。抜歯後に一時的に痛み、炎症、腫れを生じることがあり、必要があれば痛み止め、抗生物質を服用していただきます。当院では乳歯、永久歯の抜歯は行っておりません。かかりつけの先生、もしくはこちらから紹介した先生に抜歯依頼を行います。疾患等により抜歯ができない場合もあり、治療が不適応になること、治療に限界を生じることもあります。
矯正用アンカースクリュー
咬合の改善のために、歯槽骨に固定源となるアンカースクリューを植立することがあります。スクリューの素材はチタン合金が使用されていますが、まれに金属アレルギーを発症することがあります。植立部位の歯槽骨の状況、スクリュー周囲の清掃不十分により、炎症、感染を生じてしまうことがあります。その場合は、スクリューの撤去をしたり、位置を変えての再植立が必要になることがあります。スクリューの植立により歯根への接触、損傷のリスク、上顎では上顎洞への穿孔のリスクがあります。
外科矯正について
咬合の改善のために、矯正治療のみで対応できない場合、上下顎を外科処置(手術)を併用しての咬合の改善が必要になることがあります。手術前のかみ合わせは、手術後の咬合改善を考えて歯を移動するため、一時的に治療開始前の状況よりも見た目、咬合が悪化することがあります。外科処置後、顔面の知覚麻痺の症状が生じることがあります。症状は徐々に改善していきますが、若干の麻痺が残ることもあります。
歯を動かし終わったあとの注意事項とリスク・副作用
歯を動かした後の保定
歯を動かし終わった状態では、歯根周囲の歯槽骨がしっかりしていないため、歯が揺れてしまいます。
そのままにしておくと、歯が後戻り(矯正治療前の位置の戻ろうとする)、また咬む力で動いてしまうため、保定装置を使用して、その位置で固定を行います。保定装置は徐々に使用時間、日数を減らしながら歯がずれてこないかを確認します。使用時間が不足すると後戻りが生じる可能性が高くなります。
保定中にも咬み癖、親知らず(智歯)の萌出、悪習癖(口唇咬み・舌癖・歯ぎしり・くいしばり等)、吹奏楽など楽器の演奏、就寝時の口腔周囲への圧力(横向き・うつぶせ寝)等により歯が動くことがあります。また抜歯治療の際の抜歯スペースは閉鎖をして保定治療に移行します。保定装置の使用時間を減らした際に、若干のスペースを生じることがあります。保定治療中、保定終了後の状況により、保定装置の再使用もしくは再治療が必要になることがあります。
歯面の装置撤去時の問題点
歯面に接着剤で付けている装置を外した際に、歯の表面のエナメル質に亀裂が入ることがあります。歯の間に虫歯があって、部分的に白いものを詰めて治療している歯の装置を撤去した際に、詰めたものが外れたり、境目の歯が欠けてしまうことがあります。また、白いかぶせ物をしている場合に、装置の撤去によりかけてしまうことがあり、一般歯科での再治療が必要になることがあります。
治療開始前からあるかぶせ物の再治療について
矯正治療開始前からある治療済みのかぶせ物は、歯を動かす前の状況でうまくかむように治療しているため、歯の移動後うまくかみ合わないことがあります。そのような場合には、歯の移動後の位置でうまくかみ合うように、かぶせ直しの治療が必要になります。
永久歯萌出前の早期治療後、また矯正治療後の成長による変化
永久歯が生えそろうまでの間に早期治療を行った際、永久歯の萌出状況、思春期の成長によっては、永久歯萌出完了後に第二段階の全体治療が必要になることがあります。早期治療が終了しても3~6ヵ月毎の定期的な経過観察をおすすめしています。
また第二段階の全顎矯正の治療後に、習癖、成長により咬合の変化が起こった場合には追加の治療が必要になることがあります。
その他の注意事項
治療中の一時的な装置の撤去
矯正治療中に結婚式、留学等により、歯面の装置の撤去を希望されることがあります。
装置を撤去した場合、付け直しまでの期間によっては歯が動いてしまうため、保定装置が必要になることがあります。装置の撤去、再装着、保定装置の製作に費用がかかります。この費用については、治療開始時に説明した治療費には含まれません。
治療の中断、転院および治療費の清算
治療中に患者様の希望により治療を中断する場合があります。その後生じる咬合に起因するトラブルについて責任を負いかねます。
転居等により転院が必要な場合については、転居先近隣の矯正歯科を探し、矯正治療の継続依頼を行います。近隣に矯正歯科がない場合には、一般歯科で矯正治療を行っている診療所を紹介することもあります。
治療費については、治療の進行状況により清算を行いますが、転院先では当院で清算して払い戻しした費用より高額な治療費がかかる場合があります。
矯正治療による口腔周囲、顔貌の変化
矯正治療を行うことで、顔貌、口腔周囲にも変化があります。改善にも限界があり患者様の希望通りの改善ができるわけではありません。
予約について
矯正治療を行う患者様の多くは、小学生から大学生までの学生や社会人の方が多いため、通院していただける時間が平日の夕方、土日に集中します。通院間隔は1~2ヵ月間隔が多いので、予約当日もしくは直前のキャンセルをされた場合に近いうちの予約の取り直しが困難な可能性があり治療期間が延びてしまいます。習い事や部活より、なるべく矯正治療の予約を優先していただくことをお勧めしています。
